本田技研工業株式会社

 '77年に富士スピードウエイでF1が開催されてから10年。ついにF1が日本に帰ってきた。前年に続きシーズンを席捲したウイリアムズ・ホンダは鈴鹿に凱旋帰国。同時に日本人初のフルタイムF1ドライバー、中嶋悟の凱旋グランプリとなった。

 しかしレースは、フェラーリの新鋭ゲルハルト・ベルガーがポール・トゥ・ウイン。フェラーリは敵地鈴鹿で2年4ヶ月ぶりの勝利を飾った。前日の予選でN.マンセルがクラッシュし労せずタイトルを獲得したネルソン・ピケはチェッカーまで5周を残しリタイア。母国凱旋で期待されたホンダ勢は、ロータスのアイルトン・セナの2位が最高位だった。中嶋は初のホームグランプリで見事6位入賞を果たした。







 この年マクラーレンは最強を誇るホンダのV6ターボエンジンを搭載、ロータスから天才A.セナを迎え入れ、A.プロストとのジョイントNo1体制でシーズンを席捲した。チャンピオン争いが佳境を迎えると2人の関係は緊迫。その頂点を迎えたのがF1開催2年目となる鈴鹿での日本GPだった。

 レースはポールからスタートしたA.セナが、シグナルが変わると同時にエンジンストール。誰もがこの瞬間、鈴鹿でのタイトル決定は最終戦へ持ち越しと思ったが、A.セナは雨の降りしきる鈴鹿で怒涛の追い上げを見せ、28周目のホームストレートでA.プロストをオーバーテイクするとトップでチェッカー。後に3度のタイトル全てを鈴鹿で獲得するA.セナの最初のタイトル獲得となった。

 前年に引き続きマクラーレン・ホンダのアラン・プロスト、アイルトン・セナによるタイトル決定戦の舞台となった鈴鹿。スタートでトップに立ったA.プロストはA.セナとの激しいマッチレースを演じる。この時A.プロストはチームメイトが唯一自分に仕掛けてくる場所を知っていた。

 運命の47周目、A.セナはシケインでA.プロストのインを激しく突くが2台は接触。サーキット全体が凍りつく中、タイトル獲得への執念を見せるA.セナは接触で傷ついたフロントウイングを引きずりながらもコースに復帰。ピットでマシンを修復すると怒涛の追い上げを見せトップでチェッカーを受けた。誰もがA.セナの走りに酔いしれる中、レース後に審査委員会が下した裁定は、シケインのショートカットによる失格。A.プロストが暫定ながらタイトル獲得を果たした。



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 マクラーレン・ホンダで熾烈な争いを演じてきた両雄、アラン・プロストとアイルトン・セナ。前年タイトルを獲得したA.プロストはカーナンバー『1』を引き下げフェラーリに移籍。A.セナ78ポイントに対してA.プロスト67ポイント。A.プロストにとってはもう後のない状態で鈴鹿決戦を迎えた。

 A.プロストはスタートでA.セナの前に出るが、レースセッティングで勝るA.プロストにスタートで先行されては勝機がないA.セナは強力なホンダエンジンの加速を活かしA.プロストに迫ると、強引にインに突っ込み両雄はもつれるようにサンドトラップに。この瞬間、A.セナの2回目のタイトル獲得が決定した。予選10番手からスタートした鈴木亜久里が日本人F1ドライバーとしては初の3位表彰台に上り、6位に中嶋と、日本人ドライバーは鈴鹿で嬉しいダブル入賞を果たした。

 この年の鈴鹿は、マクラーレン・ホンダとウィリアムズ・ルノーによるチャンピオン争い、このシーズン限りでF1を引退する中嶋悟の鈴鹿ラストランと、過去最高の盛り上がりを見せた。レースは10周目の1コーナーでN.マンセルのウィリアムズFW14がサンドトラップに消えたことで、アイルトン・セナの2年連続3度目のドライバーズタイトルが決定。

 中盤からはA.セナとゲルハルト・ベルガー2台のチャンピオンラン。ファイナルラップでA.セナはガッツポーズを見せると、シーズンを通じてサポートしてくれたチームメイトG.ベルガーへ優勝をプレゼントした。一時7番手を走行した中嶋は、31周目のS字で突如コントロールを失い直進。この瞬間に中嶋の鈴鹿ラストランは終わりを告げた。「これがモーターレーシングだ」と語った中嶋には、20年間にもおよぶドライバー生活を終える清々しさがあった。



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 この年のイタリアGPで、ホンダは第2期のF1活動休止を発表。'83年のF1復帰以来、F1シーンにこだましたホンダ・ミュージックがついに鳴り止むときがきた。最後の日本GPにホンダはスペシャルV12エンジンを投入。アイルトン・セナも日本のファン、ホンダに敬意を表し、ヘルメットに日の丸を張り込み、ホンダの有終を飾るべく鈴鹿に挑んだ。

 しかしレースは非情なもの。3周目のダンロップ手前でA.セナの座るコックピットの警告灯が灯る。「エンジンを止める」と、力無い声でピットに連絡を入れると、A.セナは自らマシンをコースサイドに寄せ、ヘルメットを脱いだ。もう一台のマクラーレン・ホンダ、ゲルハルト・ベルガーは、2位でチェッカーを受け、ゆっくりと手を降りながら鈴鹿のファンに別れを告げた。
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